さて、この本では、特に、「五筋戯」という中国の伝統気功について、紹介していこうと思いますが、五禽戯を、取り上げるのは、老化予防の健康法という意味だけでなく、もう一つの目的があります。
それは、太極拳の実践者へのアドヴァイスです。すでに簡化太極拳とか、何らかの太極拳の套路を習って練習を続けている太極拳実習者に、読んで参考にしていただきたいという目的です。ただ套路の表面をなぞっているだけでは満足できなくなった実習者が太極拳の動作を真に理解できるようになるための五つのアドヴァイスという意味です。
私は、その五禽戯のそれぞれの動物の動きの中に、太極拳の秘密を解く鍵が隠されていると考えています。
「太極拳はとらえどころがなくて難しい」と、いう感想をよく聞きます。それは太極拳の動作にはさまざまな矛盾する要素が同居しており、ラジオ体操やストレッチ体操などと違って、すぐ理解でき、すぐ動作が身につくものではないからです。
太極拳を色にたとえれば、いったい何色でしょう。太極拳は「灰色」であると、私は思います。灰色というと、一般的には暗いイメージがありますね。「灰色の人生」というようにです。「白か黒かはっきり決着をつける」という言葉がありますが、グレーは、白黒はっきりしない疑わしいという意味になりますね。
それに対して、「五禽戯」の五種類の動物のそれぞれの動きは、太極拳の大切な肉体動作を、わかりやすく原色にして表現しているのではないかと感じます。
五禽のそれぞれの動物は、五行の理論に従って、次のように五色に分類されます。
1鹿は木で青(緑)
2猿は火で赤
3熊は土で黄
4虎は金で白
5鳥は水で黒
五禽戯のそれぞれの動物の動作は、武術の大切な秘儀をカプセルのように大切に保管しているのです。太極拳はそうした、五種類の「肉体動作の秘儀」をひとまとめにして動いているので、何かとらえどころがなく、核心をつかむ事がむづかしいのです。
太極拳を練習しているあなたは、この五禽戯の中で、自分の気に入った動きを練習してみるのです。一つ一つの動物の動きについて理解して、それを実践し、体に覚えさせていけば、それにつれて、太極拳の動作が深く見えてくるようになるはずです。
もちろん、あなたが太極拳をまだ習った事がないとしても、それは心配要りません。五禽戯はたやすく学習する事ができます。そして、太極拳を習う時には、五禽戯を知らない人よりも早く太極拳をマスターする事ができるでしょう。
…私の独断的な意見を先に述べてみましたが、読者のあなたは、それが本当であるかそうでないかは、実際にそれぞれの動物の動作を練習してみて判断してください。
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