第一章
 
意と気の運動の実現

意と気の使い方に関しては、太極拳と静功(座禅、站桩功と臥功)は同じであり、意識と気に重点を置いて鍛錬するということに言及しなければならない。しかし太極拳は、その動きの中で「動中に静を求める」為意と気の運動と呼ばれるのであるが、静功には動作が無く静のみを求めるため、両者を混ぜてはならない。

 つまり太極拳は内外兼修、動中に静を求めるため、内在する意と気の運動をしっかりと行い、神と気のうねりをしっかりと外部に表現しなければならない。これは『行功心解』の中において“形はウサギを捕らえる鷹のように、神は鼠を捕らえる猫のように”と述べられているのと同じである。このような内外が相間見える鍛錬を必要とする武術を行うには、本章にて後述する7つの特徴の要求を達成しなければならない。逆にいえばこの7つを実現させることにより、太極拳の特徴である意と気の運動を体現できるのである。いいかえれば、特徴は8つに分かれてはいるが、実質的には一つの統一体の中を源とし内部で連携している。あえて細かく分けて説明するのはあくまで便宜上でのことである。

 ここで7つの特徴を述べる前にまず、簡単に、これら7つが意と気の運動を貫徹するということに関しての、作用の解説をしなければならない。

 特徴二――弾性運動;四肢の伸張、伸張するからこそ結果的に弾性を生む。柔らかい弾性は四肢のうねりを促進させるための内在的因子である。もし弾性がなければ動作は硬直し、外側に現れる神気のうねりを作りだすことが出来ず、当然内在する意と気のうねりと協調することもできない。

 特徴三――螺旋運動;動作のうねりの起伏を増強させることが可能である。もし動作が直線的に行ったり来たりするだけで、高低・内外の裏返しや回転がなければ、精神・意気および身法にうねりをおこすことができない。よって、必ず順逆の螺旋運動と、腕を旋回させて肩を廻す、くるぶしを旋回させて脚を廻す、腰を旋回させて背骨を廻すことをさせなければならない。このことによって、螺旋が連結して貫かれ一つになった太極勁を全ての動作の中に注入することが可能となる。このようにして、普段は静かであるがひとたび動けば自然にうねりが形成され、意と気の運動の動作の核心を作り出すことができるのである。

 特徴四――虚実の調整;これは意と気を柔軟に変化させ、珠のように丸く活力がある感覚の元となるものであり、うねりを生み出す力の根源である。上が下に追随し、下が上に追随しながら虚実を変換することにより、神気と身法を活発で滞りの無い状態にすることが促進され、神と気のうねりもここから生じる。もし上下がお互いに相い従うことができなければ、虚実の調整ができず内勁が真っ直ぐで偏りがないという状態にすることができない。内勁が偏ると内勁と身法がいっぺんに傾き、八方を支えるという状態が失われてしまう。内勁が一方向に傾いた姿勢の下で神と気にうねりを起こそうとするのは非常に難しい。

 特徴五(節々貫串)と特徴六(一気呵成)は、実質上1つの特徴を2つの段階に分けたものである。前者は1つの拳式の中に全身の主要間接を龍の頭から尻尾までが繋がっているように連環、貫通させると共に節々を一つずつ順番に通過させ、後者は型を通して練習する際に各々の動作を途切れることなくつなげて一気呵成に行うという要求である。これにより運動量が増し、節々をうねらせるという具体的な要求を達成させることができる。もし節々が貫かれ繋がることができなければ勁に断絶が生じてしまい、揺れ動きやうねりといったものもなくなってしまう。同じように、一気呵成に行うことができないと断絶が生じ繋がることが不能となり、各動作が孤立し一気にうねらせることができない。よって、この二つの特徴を実現できなければ神と気をうねらせることは不可能であり、それらは密接に関係している。

 特徴七(剛柔相済)と特徴八(快慢相間)は、二つの対立する矛盾を統一するという特徴を備えているのであるが、神気のうねりをつくりだすためには必須の技術である。この快慢と剛柔が交わって一体とならなければ、前述の特徴を有機的に関連づけて起伏のうねりを作り出すことは容易では無い。この二つの特徴は“柔らかくて緩慢”、“剛にして速い”ができていなければならず、剛く速く、を開始したら押し寄せてくる波のように、柔らかく緩慢にという状態に入れば波が引くようにする必要がある。

 このようにお互いが交錯する状態には滔滔として絶えることの無い推進作用がある。以上、剛柔相済と快慢相間の作用は、運動を行う上では気の巡りが柔らか且つ緩やか、動作の着地が剛くて速く、気を体全体にめぐらせ、ほんの少しの油断さえ作り出すスキも無くすことができる。また、武術としては“急激な動きには素早く対処し、遅い動きには緩やかに従う“ことができ、相手が剛ならば自分は柔らかく動き、相手が柔ならば自分は剛で粘りつくということが可能である。この2つの特徴によって内部の意と気の運動と外側に現れる神と気のうねりをピークまで押し上げることを実現できる。

 これから分かるように、特徴一はその他七つを統率するというのがその特徴になるのだが、同時にその他七つの助けがあってはじめて実現できるものである。それらの関係は牡丹の花と緑の葉のようなものであり、互いが助け合うと同時にお互いが制約しあって成長するのである。このことは初心者のうちに必ず知っておかなければならない。

 第一の特徴を掌握する為に、大まかなコツを以下の何点かにまとめる。

 練習時において意識は動作に注ぎ込み、意を持って気を運ぶ。ただひたすら内気をどう巡らせるかということだけを黙々と考えていてはならない。

 意と気にうねりを生じさせる為には3つの方法があり、
①動作をスムーズに、
②落ち着いて、
③勁を最終地点まで運び終わる際にその勁の種類を表現する、
ということを練習の時には心がける。

 外に表現する神と気のうねりをしっかりと掌握することにより、集中力を途切れさせること無く、逆に内在する意と気の運動を促進させることができる。

 その他七つの特徴をうまく運用すると、それらが協力して意と気の運行を高めることができる。



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