エピソード2

 代々木公園での練習の合間に、兪棟梁老師が「太極マーク」の重要さについて話してくれました。私たち生徒は、兪老師を「兪さん」と呼んでいました。私はそのころ35歳、兪さんは、私よりも2歳、若い老師(老師とは中国語で「先生」という意味)でした。

 兪さんが若いころ、上海の邵永清(しょうえいちん)老師の生徒だったころの話です。ある日、兪さんは「一度遊びに来なさい」と邵老師の家に招かれました。食事をごちそうになり、普段は聞くことのできない、太極拳の本質について、ありがたいお話をしていただきました。そして帰り際に、一枚の太極マークを手渡され、

 「太極拳の本質がこのマークの中にすべて示されているよ」
と教えられたとのことです。

 兪さんは自宅に帰り、手渡された太極マークを、しげしげと眺めてみたのですが、ただ、紙切れに描かれたマークをどう理解すればいいのか、さっぱりわかりませんでした。それでその時は、ぽいっと部屋の隅に放り投げて、そのまま忘れてしまったということです。

 しかし、それから何か月かたって、部屋の隅に放りっぱなしにしてあったその太極マークを何気なく拾い上げて、

 「そういえばこれは邵老師にいただいたものだったな」と思い出しましたが、「ふーん」と、またそれを放り投げようとしましたが・・・しかしその時に、

 「あ、そうか!そういう意味なのか、太極拳はすべてこのマークの通りなんだ!」と、これまでわからなかった太極マークと太極拳の動作の関係が氷解したということです。このような理解が禅でいう「悟り」なのでしょう。
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