はじめに エピソード1
 私は太極拳に出会ってもう35年になります。1980年の春ごろから一年間、中川二三生老師に簡化24式太極拳を学んだあと、中川老師に紹介されて、山口博栄老師から7年間、陳式太極拳を学びました。
 そして1988年に、私がたまたま、初めて訪れた、故中野晴美老師の主催する太極拳道場で、中野老師から兪棟梁(ゆ とうりょう)老師を紹介されました。そこで老師の表演する太極拳を見て、その不思議な動きに魅了されてしまいました。

 初めて兪老師にお会いした時、私は「この人が本当に太極拳の先生なのか?」と疑いを持ちました。なぜなら、腺病質そのものの痩身で、手足が針金のようだと感じたくらい、からだが細かったからです。

 しかし、その動作は、私がそれまで持っていた陳式太極拳のイメージとは、まったくほど遠いものでした。ゆっくり動いているのに鋼のようなしなやかさが感じられました。早く動くと魚が尾ひれをひらめかせて素早く泳ぐような敏捷さを見せました。すぐに私は、「この老師の太極拳を学びたい」と強く思いました。

 兪老師は来日してすぐに、中野老師の道場のインストラクターになっていました。最初わたしはその道場に通い、週に二日、兪老師から陳式太極拳新架式を学びました。しかし、それに飽き足らず、老師にお願いして、個人的な教室を作っていただき、代々木公園で数人の友人たち(私が簡化太極拳を教えていた生徒)と老師から陳式太極拳を学ぶようになりました。

 兪老師から学び始めて一年目の頃、師の教える動作が「8を描いている」ことに気づきました。
 それである日、代々木公園での練習で生徒が私一人の日に、私は師匠に「太極拳は8でしょう?」と、質問してみました。

 その時、ギョッとして振り返った兪老師の顔が、今でも忘れられません。兪老師は一呼吸おいて、「ええ、もうわかったの?」といいました、そして、また一呼吸おいて、「でも他の生徒には内緒ね!」と片言の日本語で言いました。
 
    兪棟梁老師
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