第一章
  1  太極拳は渦


 太極拳は、信じられないほど「巨大な渦」です。まず初め、人はあまりにも巨大なものを認識することはできません。大地を見ることはできますが、それが「球体」をしているなんて知覚できるでしょうか?

 太極拳を練習する人は、深い靄の立ち込める大海の、渦の周りを巡る一艘の小船です。しかし、太極拳を学び始めた人は、最初は、その巨大な渦に気づくことはありませんが気づかない「引力」に導かれて、小舟はゆっくりゆっくり大きく渦の周りを一周していきます。

 そして多くの小船は、渦の周りを一周するかしないうちにその渦から離れていきます。そうです。せっかく太極拳の練習を始めても、一つの套路を習い終わらないうちに興味を失って、その練習をやめてしまいます。

 その渦の周りを何度か回るうちに、小舟は次第に渦の中心に吸い寄せられていきます。それまで気づかなかった中心に向かう回転を次第にはっきり感じられるようになってきます。そうなると、小舟はもう、渦の周りから離れていくことはないでしょう。何か不思議な魅力を感じて、ただ、日々、たんたんと渦の周りをまわるのです。

 渦の周りを飽かずめぐるうちに、次第に霧が晴れて「視界」がはっきりしてきます。小舟はとても強い力に吸い寄せられているのを感じてくるでしょう。そうなれば小舟は、もうこの大渦から逃れることはできません。次第に高まってくる「渦の回転運動」に魅せられてしまいます。

 さあ、この先、その小舟はどうなっていくのでしょうか?ある時、小船は「大渦」の中心に飲み込まれるのです。
 
 しかし、それは決して終わりではありません。小舟は渦の求心力に吸い寄せられて、不思議な「海の底」に降りていきます。そして、静かに浮かび上がってきます。その小舟は渦を自在に乗りこなせる力を得たのです。

 さあ、あなたは、その大渦からすぐに離れてしまう人ですか、それともすでにその「求心力」にとらえられて、渦から離れられなくなってしまった人でしょうか?

[BACK][TOP] [HOME] [NEXT]