鶴と蛇と太極拳


エピローグ

  ロンドンからのメール   



 Nさんからのメールが私のパソコンに届いたのは平成4年の夏でした。

 「先生の太極拳の最小単位は「8」であるという理論についてですが、少し私の感想を述べさせていただきたいと思います。私は現在イギリスで楊式太極拳の古式(楊班猴老師の型)を学んでいますが、先生の理論は私が師事している師匠の教えと共通するものがありまして、大変興味深く読ませていただきました。

 私の師は套路のほんのさわりの部分において「あえてその動き」を誇張して見せてくれました。
 「これはすべてだから」とも言っておりました。
 対人としての8については「単推手」でそれを感じさせてくれた次第であります。
・・・・8の話、最初に読ませていただいたときの私の感想は
 「こんなこと書いていいのかな」
でした。
 
  私は平成1年春頃から「オーガニック・ツリー・メソッド」というホームページを開いて、気功や太極拳に関する、私の理解を発表する場にしていました。現在のこのHP「真北斐図の太極拳HAO!」に発表する内容の一部はすでにそのころに発表していたのですが、「太極拳の最小単位は8である。」という内容の一文もその中にありました。Nさんのメールはその内容に対する返事でした。

 8の理解は「秘儀」と言っていいものです。Nさんの師匠が明かしたように、「これがすべて」なのです。Nさんにはすぐに返信メールを送りましたが、Nさんから返事が来ることはありませんでした。

 私は太極拳に出会ってもう30年になります。8年目に、陳式太極拳の師匠、兪棟梁老師に出会い、師の表演する陳式太極拳新架式の不思議な動きに魅了されてしまいました。 私は、数人の友人(私が簡化太極拳を教えていた生徒)たちと兪老師から太極拳を学ぶようになりました。

 師から学び始めて1年目の頃、師の教える動作が8を描いていることに気付きました。それである日、いつもの生徒が休んで私一人のときに、私は師匠に「太極拳は8でしょう?」と私の感じたことを質問してみました。

 ギョッとして振り返った兪老師の顔が忘れられません。「ええ?もうわかったの」と言って、一呼吸おいて、「でも他の人には内緒ね!」と片言の日本語で言いました。

 しかし、私の悪戦苦闘はそれからでした。それは套路の動作に8がどう生かせるか、8をどう区切ったらいいのか、8に関して師匠は全く教えてくれなかったのです。

 私が質問すると「見て!」と言って何度も動作を見せてくれますが、決して図形を描いて説明してくれることはありませんでした。どうやらそれが伝統的な教え方のようなのです。諦めきれない私はひとりでなんとか、動作の中に8を入れようと頑張ってみたのですが、8を考えれば動作は形が狂ってしまい、形を追えば8がなくなり、ほとんど10年間ほど、私の頭の周りには四六時中、8が飛び回っていました。その当時の私の練習ビデオを見ると、恥ずかしくなってしまいます。

 8こそがまさに蛇なのです。私は長年悪戦苦闘してきた8について、詳しく説明して、その安全な練習の仕方を発表しようと決めました。

 しかし、この8という蛇は強力な毒を持っています。この蛇を手名付けるためには、私の説明をよく読んで、一歩一歩練習を積み重ねていってください。太極拳の練習を始めて間がなく、まだ套路を習っている段階の人は独習することは難しいかもしれません。あなたが套路を習っている先生に相談して、先生から指導を受けてください。


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