鶴と蛇と太極拳
転の章


 5 左右逆には出来ない?


 簡化24式太極拳の套路を全部学び終えたばかりのころ、N先生から太極拳の套路(とうろ)の練習方法として、
 
 「左右逆に練習すればいい」とアドヴァイスされたことがありました。

 「太極拳の套路って左右対称にはできていないんだ。起勢の後の「左野馬分鬣」はまず、右手を上にして抱球して、左に体をまわして進んでいく。左野馬分鬣の後には右野馬分ゾウが、そしてもう一度左野馬分ぞう、つまり、左野馬分ゾウは2回、右野馬分ゾウは1回しかないんだ。どうしてこんな組み立てになっているんだろうね。」

 実は私も、套路を学び始めてからずっと同じような疑問があったのですが、改めてそう質問されると、自分の持っていた疑問は意味のないことではなかったんだと肯定されたように感じました。

 それから
 「左野馬分鬣と右野馬分鬣はどっちがやりやすい?」と質問されて、そういえば確かに練習していて左のほうが右よりもうまくいく感じがあったのですが、それが自分だけではなかったことに少なからず驚きを感じました。

 私が「左がやりやすいと思います」と答えると

 「そうなんだ、だいたい誰に聞いても左がやりやすいって答えるんだ。」と老師。

 「それで、野馬分鬣のつぎは、白鶴亮翅になる。白鶴亮翅は右手が上、左手が下の形だけしかない。これも変だよね。」

 「だから最初から、左右を逆に練習すれば、二倍練習できることになるだろう、これってなかなか面白い練習方法だと思うよ」

 私は、N先生に言われたとおり、さっそく套路を最初からまるっきり逆方向で練習してみることにしました。

 しかし、ただ左右逆にすればいいと、軽く考えていたのですが、これが以外に難しい、何度くり返してもぎこちなさが消えないのです。

 ものは試し、24式の套路でなくても、あなたが覚えている太極拳ならどれでもいいでしょう。左右逆に練習してみてください。きっとぎこちなさを感じ、何度練習しても逆の套路は覚えられない・・・というより、その試みの努力を続けたくなくなってくるでしょう。

 N老師から私は、太極拳の基本を、ごく早い期間に的確に教えられました。現在私が生徒に教えるときにも、「これもN老師に習った基本だ」という重要ポイントがいくつもあります。ただ一つ、このポイントだけは、ずっと疑問に思い、私の太極拳追求のこだわりになっていきました。

 そしてその答えは、それから7年後に兪棟梁老師より学んだ「陳式太極拳83新架式」の学習を通して、しっかりと体得することができたのです。

 私がたどり着いた結論は
 「套路は左右逆にはできない、してはいけない、ありえない」ということでした。

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