鶴と蛇と太極拳
転の章


 10 太極拳の知恵

 
 さあこれでなぜ、「白鶴亮翅」が右足で立っているのか、お分かりでしょう。そう、まず、一つの理解は、「体のバランスをとるため」ということです。

 いつも、左に乗りやすい傾向の体の歪みを右足で立つことによって矯正していると見てはどうでしょうか?

 私も、若いころ、やはり右肩がコリコリでした。学生時代、あまり勉強はしませんでしたが、部屋に閉じこもって漫画を描いたり、絵をかいたりすることが多く、そのせいか、異常に凝っていました。

 現在は、全く肩こりに悩むことはありません。ただ、パソコンを長く打ったりすると一時的に右の首筋が凝ってきます(パソコンは両手を使うのになぜ右頸筋かというとおそらく「文字を打つ」ので強く左脳を使い、その結果緊張が右の首筋に出るのでしょう)が慢性的な肩こりはありません。

 ほとんど毎日生徒と一緒に太極拳を練習しているので、疲れ知らずです。これは太極拳練習の素晴らしい「健身成果」ですね。

 「右足で立つ」理由はこれだけではありません。

 右足で立つのは、右足の蹴る力で、即座に動けるようにしている、ということもあります。

 先に動き出す(力が働く)のは右足です。左足はその動きを受けて、地面をしっかり踏ん張って強い武術的な力「勁力」を生み出すのです。

 私たちは歩く時、左右の足を均等に使って歩いていますが、「武術的」な動作は必ず「右左」「右左」とまず、右足で地面をけることから始まります。それに対して左足はそれを「止める」ようにして働きます。止めると力は、上昇していきます。その力は結果的に右の腕に達することになります。

 このような「力」こそが「蛇」なのです。
 このあたりから、いよいよ、この本のテーマである、「鶴と蛇の格闘」が問題になってきます。


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