鶴と蛇と太極拳
転の章


 8 右手は陽で左手は陰

 
 N老師から、「左右対称に練習してみては」というアドヴァイスをさえれたことはすでに書きましたが、実は、同じ頃、いや、一年ほどあとだったかもしれません・・・N老師から、「右手は「活動力」で左手は「制止力」である」という大変重要な原理も、すでに教わっていました。

 『右手が敵に対して「何だコノヤロー」と殴りかかりそうになるとき、「よしなさい、そんな乱暴は!」とその右拳をやんわり押しとどめるのが左手のはたらきなんだ』と、教えられたのを、この文章を書きながら思い出しました。

 ということは、おそらく、老師はそのころ太極拳の左右の違いを追及している最中だったのかもしれません。

 老師の説明は、中国式のあいさつのことなのです。

 太極拳の表演者がステージで、客席に向かってあいさつするとき、左手の掌に右手の拳をつけて、礼をします。それは伝統的な挨拶です。

 その右手の拳は「太陽」を左手の掌は「月」を表しています。太陽は「陽」月は「陰」です。

 右手は左脳の命令を受けて動きます。左脳は「論理脳」で、右手はその命令で器用にうごくことができますが、支える力と持続力は左手にかないません。

 左手は右脳の命令で動きます。その特徴は、支えることと、バランスをとることです。動くのが力であることはわかりますが、その動きを制止するのもまた、力なのです。

 右手は「攻撃」左手は「防御」ということもできます。盾を持つ手は左手、矛を持つ手は右手です。武術の「武」という漢字は「止(し)」と「戈(か)」という字からできています。止は盾、戈は「鉾」です。これが武術です。


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