鶴と蛇と太極拳
結の章

 

 2  「鶴」と「蛇」とは  

 
 私の解釈を簡単に説明しましょう。

 これは『太極拳の動作の本質が、「鶴やカササギ」で表現される要素と、「蛇」で表現される要素の組み合わせである』、ということを、さり気なく教えている暗号メッセージではないかということです。

 そして、両者が争っているというわけですから、その両者は、まるで火と水のように、互いに質の異なる何かであるはずです。

 鶴またはカササギで表現される要素とはいったいなんでしょうか?

 それは、華麗に表現される太極拳の動作(形)でしょう。特徴は、鶴のようにスッと立った背骨(上体)とはばたく翼のような両手の動きです。一番わかりやすい形は「白鶴亮翅」でしょう。

 白鶴亮翅の定式(動作の完成形)はちょうど太極マークのようではありませんか。

 では、「蛇」とはいったいなんでしょうか?

 それは太極拳の力強さの秘密である、足腰を主体にした隠れた動作のことであり、その動作を効果的に作り出すためには「ワンパターン」のリズムを理解する必要があります。

 その運動はちょうど蛇が獲物に絡み付くように、全身をリズミカルに不思議な揺らぎで波打たせます。ゆっくりそれを巡らせる時には、それは真綿で包むようなやわらかな動きになり、瞬時に巡らせると、それは発勁と呼ばれる強力な爆発力となるのです。

 この力に目覚めて始めて、ゆっくりと動いて練習することの大切さがわかります。そうなって始めて、その人の太極拳は本物になります。

 また、もしもこの要素が簡化24式太極拳の中に取り入れられれば、もはやそれは簡化太極拳ではなく、古式太極拳、つまり本物に作り替えることができるのです。

 逆にいえば、いくら伝統武術である陳式太極拳や呉式太極拳の套路を学んだとしても、それを理解しなければ、それは到底武術にはなり得ません。ただの健康法に過ぎないでしょう。

 要約すると、鶴は明らかな形、(陰)で、蛇は隠れた力、(陽)です。ですから太極拳は陰陽の合体、つまり「太極」拳なのです。

なぜ、目に見える形が「陰」で、隠れた力が「陽」で、その逆ではないのでしょう。

 それは「形」は「力」によって作り出される結果に過ぎないからです。形は器であり、力こそが内容なのです。しかし、力は形がなければ力を発揮できません。
 このふたつの要素は、それぞれ分けて考えていくと非常に理解しやすいのですが、ふたつの要素が完璧に融合した上級者の表演を見てそれを理解することは、すでにそれを体得した人意外、まず無理でしょう。


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