鶴と蛇と太極拳
結の章

 

 3 勁道と蛇  

 
 太極拳の套路を演じる両手はとてもしなやかで、起勢から終勢まで片時も動きが止むことはありません。まるで両手にそって蛇がうごめいているようです。全身に絡まるように「力」が移動していくのです。

 一般にそれは「纏絲勁」または「抽絲勁」として理解されています。イラスト1のような表現はしばしば見かけます。体にまとわりついた螺旋はまさに蛇のようですからとても巧妙な分かりやすい表現といえるでしょうが、率直にいってこれは実際的な感覚からは程遠いものです。

 「蛇」とは力の道(勁道)です。それは、体の中にあるのでしょうか、それとも体の外を通っているのでしょうか?どちらともいえません。体の中も外も自由自在に動きます。私たちがもっている肉体の意識からすれば、まるで影のようです。しかしこの蛇が肉体を従えて働くのだといえば、理解できるでしょうか?

 そしてその蛇を自由自在にあやつることのできるものはなんでしょう?それは「イメージ力」または「意念」です。意念によって蛇を自由自在にあやつる練習をするのです。もちろんそれは太極拳に必要な基礎を身に着け、套路の練習を充分に積んだあとに行なうべきです。

イラスト1
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