「亀の呼吸」の伝説

 道教の古い文献の中に、戦乱の間、人里離れた森の奥に逃れて生活していた一家の物語があります。一家は山の中の深い洞穴を住居にしていました。

 ある日、その山の一部が崩れ、彼らはその洞穴の中に閉じこめられてしまいました。中からは全く掘り進むことができず、仕方なく一家は誰かが見つけてくれるのを待とうと、その穴の中に座り込みました。

 何カ月かが過ぎ、貯蔵していた食物も底をつき、彼らは死を切望するようになりました。

 そんなある日、彼らはその洞穴の中に、一匹の亀がいるのを発見しました。その亀は彼らが閉じこめられたときから一緒にそこに住んでいたのですが、あまり静かなので初めはそれが岩だと思っていたのです。

 彼らは、その亀がどうやって今まで生き延びてきたのか、その秘密を知りたいと亀の不思議な動作に注目しました。

 何日も観察した結果、亀はただ、その甲羅から頭を出したりひっこめたりの運動だけを行っているのだということを知りました。時たま洞窟の上から落ちてくる水滴を舌で受けとめるためにその動きを止めることもありました。亀は落ちてくる水滴以外は何も食物を摂ってはいませんでした。

 やがて一家の保存していた食物は完全に底をつき、厳しい飢えに直面しました。そして誰が言い出すでもなく、彼らは、亀の単純な動作の中に、何か生き延びる手がかりが隠されているのではないかとその動きをまねるようになりました。

 洞窟を塞いだ大岩を取り除き、人々がその一家を助け出したときには、とても長い年月が経過していました。記録を調べてみると、一家がその洞穴に閉じこめられてからなんと、八百年もの歳月が経過していたとのことのです。

 ハッピャクネン・・・・このお話は到底信じることができないでしょうが、しかし、亀のエクササイズが肉体の神経系等を活性化させるためにとても優れた実践法であることは確かな事実です。

 これは首にある全神経を伸ばし、刺激し、そして活力を与えます。首にある神経は、脳や手足の末端にまで伸びています。脳からは無数の神経が中枢神経系統を通して体中に張り巡らされていますが、首はそれらすべての神経の集合している場所なのです。

 首は重要な場所です。首相は一国の重要人物です。首は頭部と胴体をつなぐ接合点(Knot)です。人間は手足を切り取られても生きていくことができます。しかし、頭を切り取られれば生存することは不可能です。

 このように首は重要な場所であり、私たちは首のエクササイズを行う重要性を十分に認識すべきです。そして首の神経、各組織、動脈や静脈などの正常なはたらきが損なわれないように、エクササイズの実践によって新陳代謝の作用を強化し、そうした場所の老廃物を洗い流してやらなければなりません。

 「亀の呼吸」は背骨全体を伸ばし、首を活性化し、肩の筋肉を強化し、首や肩の筋肉の疲れ、緊張、痛みを取り除きます。またそれに加え、甲状腺と副甲状腺が活性化し、強化されます。そしてそれによって肉体の新陳代謝のはたらきが改善されるのです。

 もしも「亀の呼吸」を毎日実践していけば、実践者は次第に肉体が若返るのを感じ、体内の生命エネルギーの循環が改善されることによって、食事の摂取量が自然に減ります。
 [BACK][TOP] [HOME] [NEXT]