誰にも聞けない太極拳の疑問


はじめに

   

 まずこの本の内容に入る前に、ある「太極拳教室」の老師と生徒の会話をお聞きください。

 この教室は、都内の公園で、早朝、週に三日ほどひっそりと開かれています。公園の片隅の、樹木と小鳥のさえずりに囲まれた異空間が、私たちの「道場」です。

 老師とは私、真北斐図です。

老師 今日の練習はこれくらいにして、少しみんなでお話しましょう。もうこのクラスのみなさんはひと通り「簡化24式太極拳」の套路をマスターしていますね。

太極拳を練習していて、ひとつひとつの動作や、細かい内容は毎回教えています。でも、普段の練習で触れないところで、疑問に思うことや、聞いてみたいと思っていることがあるでしょう。それをみんなで考えてみましょう。

太極拳の疑問だけは老師以外、誰も教えはてくれません。ではA君から、聞かせてください。

A君 僕は、真北老師の教室に入会して半年目です。簡化太極拳の套路がやっと全部終わったところですが、まだ一人では通して練習できません。

ちょっと恥ずかしいんですけど、太極拳の動作がどれもみな同じように見えるのです。太極拳って、以外にムヅカシイですね。

老師 で、質問は?

A君 
エーと、「太極拳の動作はなぜ、どれも同じように見えるんでしょうか?」なんて、質問ではダメですか?
・・・ちょっとふざけてるでしょうか。

老師 ふん、それは、大変意味のある質問です。おふざけとは思いません。おそらく、かなり多くの初心者が感じている正直な感想ではないでしょうか。これは意外に太極拳の本質を含んでいるのです。

B君 イヤイヤ君なんか覚えはいいほうだよ、私は先生について練習始めてもう2年目だけど、わからないことだらけ。この際、どんどんわかんないことを聞いたほうがいいよ。

老師 そういう君はどうですか、何か質問ありますか?

B君 と、急に質問されると、ええっと・・・ちょっと待ってください。えーっと、こんなこと聞くのって、いいのかな・・・

太極拳の動きってゆっくりですよね、どうしてなんですか?だって、太極拳はもともと武術なんでしょう。

老師 武術、護身術としての要素を持つ太極拳がなぜ、ゆっくりなんだろうということですね。フン、これも、とても意味のある質問です。

C君 先生、私は、9ヶ月目でやっと慣れたころですが、初めのころはこの教室が終わってから会社に行くと、デスクで居眠りが出てしまうくらい疲れたものでした。

常々疑問に思っていたのですが、太極拳がずっと中腰で練習していくでしょう?おそらく疲れる原因は、その中腰姿勢だと思いますが、なぜ中腰姿勢なんでしょうね。

老師 そうそう、それもなかなか深い、内容のある質問です。決して君の体力が弱いせいではありませんよ。

はい、ではD子さんはどうですか?

D子 先生、太極拳の動作って、どうして、左右対称ではないんですか?

老師 おおっと、これはすごい質問が飛び出したね、君は太極拳を初めて3年目くらいだったっけ?

D子 やだー先生、私もう6年目になります。だって白鶴亮翅は、右手をあげて右足で立っている形しかありませんね。手揮琵琶だって右足で立っている形だし。

なんか全体的に、定式のときに右足で立っている形が多いように感じるんですが。

老師 太極拳の動作が左右対称でないのはなぜ・・・というこの質問は、太極拳を実践している全員に、真剣に考えてもらいたいものです。さすが6年のキャリアですね。

E君はまだだっけ。

E君 僕は「気」のことが知りたいです。『太極拳は「気」の武術』っていうじゃないですか。「気」なんて、本当にあるんですか?「気」の勢のような気もしますが・・・僕は太極拳歴2年目ですけど。  

老師 なるほど、E君は見えない「気」に対して懐疑論者なんですね。わかりました。

みなさん、とてもいい質問をしてくれました。それでは、ひとつひとつ、皆さんの疑問に答えていくことにしましよう・・・


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