第一章
  18  収腹・提肛
 

 まず大切なのは、「提肛」です。スポーツの指導者やダンスの先生が動作を指導するときに「ハイ、お尻を閉めて」と注意します。しかし、多くの生徒はそう注意されたときに、おしりの筋肉、つまり「大臀筋」を引き締めようとします。しかしそれは正しくありません。

 「提肛」はPC筋を収縮させる運動です。PC筋は恥骨と尾骨を8の字状につなぐ筋肉(骨盤底筋」と)です。このPC筋の中央が「会陰」です。「提肛」とは「会陰を引き上げる」といった方がわかりやすいでしょう。会陰を引き締めて、緩めてを繰り返すことを「提肛運動」と呼びます(この筋肉を引き締めることを、ヨガの用語で「ムーラ・バンダ」と呼び、引き締めたり、ゆるめたりを繰り返すことを「アシュヴィニ・ムドラ」と呼びます。つまり、ヨガの実践法でも非常に重要な意味を持っているのです)。

 なぜ提肛が大切かというと、この筋肉は緩みやすいからです。この筋肉が緩むことで、腰痛や肩こり、内臓下垂、便秘など、薬で治すことのできない病気が発生するのです。もちろん、それらの症状は一般的には、病気と呼ばれません。中医学では「未病」という言い方をします。病気の一歩手前です。

 このような「未病」が発生する原因は「直立姿勢」にあります。私たち人間も犬や猫と同様、「哺乳類」に属しますが、犬や猫には「内臓下垂」は起こりません。内臓は背骨と肋骨に守られ、支えられているのです。ところが人間の内臓は、直立が原因で「下垂」してしまいます。内臓が下垂すると、「PC筋」は内臓に圧迫されてさらにに緩んでしまいます。

 この内臓をしっかり元の位置に戻すには何が必要なのか?それが「提肛」なのです。提肛することで、体内の見えない筋肉が内臓を引き上げる効果を発揮するのです。その効果は、「収腹」することによって、さらに高まります。「収復」は「腹直筋」の収縮です。

 太極拳練習の中で、「屈筋」を引き締める運動は極力控えなければいけませんが、「腹直筋」や「PC筋」はしっかり引き締める必要があるのです。

 
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