第一章

 1 ギターの弦をうまく押さえるには
 
  

 この本は太極拳の隠された技術について私の理解しているところを解説していこうと考えていますが、まず手始めに、太極拳とはまったく関係のないように思える、ギター練習についてお話していこうと思います。

 私が若いころは世界中がフォークソングブームで、日本では「バラが咲いた」とか、「若者たち」なんていう歌が流行していました。とても簡単な曲が多かったので、教則本を見ながら左手でコードを押さえて、右手でボロンボロン弦をかき鳴らして、十分ギター演奏を楽しめました。

 ギターを始める人は、最初は「C」や「Am」「Em」といったローコードを押さえることを学びます。そんな程度でも結構、曲が弾けるものです。しかし、もう少しレベルを上げて「F」などのバレー・コードを押さえようとするころから、急にギター演奏は難しくなります。ギターフレットの六弦全部、または五本の弦を左手の人差し指で押さえるのが「バレー」と呼ばれる技法です。これが初心者にはとても難しいのです。

 それは「Fの壁」と呼ばれています。ギター演奏の第一の難関です。「F」を押さえようとして人差し指でギュッと「弦を押さえる」のですが、なかなかいい音が出ません。夢中にやって、ギターと格闘して30分もしないうちに指が痛くなって「負けた!」と言わんばかりにギターを放り出してしまいます。指にはくっきり弦の跡がついています。弦を押さえるためのこの痛さはとても苦痛でした。
 
この「Fの壁」を越えられなくてギター上達をあきらめる人が結構多いのです。若いころのわたしもそんな一人でした。うまく押さえられない人は、「指の力が足りないのだろう」と考えます。そのころ「指の筋肉を訓練するためのグッズ」が売られていたと記憶しています。左手で握る小さな器具で、バネを利用したその器具は、握って指の力をつける目的のものでした。

 あとで分かったのは、こんなトレーニングはまったく意味がなく、変な癖ができるだけだということです。弦を押さえるのに握力は必要ないのです。当時、私はそんなグッズを買ってまでの努力はしないで、ギター練習はすっかり忘れてしまっていました。

   


 
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