第一章

 4 「手揮琵琶」=「Play the guitar」
 

 
 「音楽」と「武術」はまったくかけ離れた分野ですが、共通項が、このこと以外にも不思議なくらい見出せます。

  まず、太極拳の有名な「手揮琵琶(しゅきびわ)」という動作です。「手揮琵琶」は、楽器の琵琶を両手で抱えるような動作です。ちなみに「手揮琵琶」は、英語では「Play the guitar」となります。とてもわかりやすい訳で、うれしくなってしまいます。「手揮琵琶」は本当に、ギターを抱えているようなしぐさですね。

 ギターは左手でネックを持ち、右手でボディを抱えますが、手揮琵琶も同様に左手を突き出し、右手で抱えるような形をとります。私は以前から「手揮琵琶」こそが、太極拳の深奥をつかみ取るための「しっぽ」であると考えています。

 それにはまず、左右の手の働きの違いを理解しなくてはいけません。右手は巧妙にコントロールして動かす手です。剣や刀などの武器は右手に持って操ります。それに対して左手の働きは、「ささえる」ことです。

 武術の「武」という漢字は、「止(し)」と「戈(か・ほこ)」という文字に分割できます。「止」は盾、「戈」は鉾、つまり武器です。左手に盾を持ち、右手に武器を持ちます。

 逆に右手で盾を持って支えてみてください。右手は、重い盾を長時間持ち続けることが難しいということがわかるでしょう。左手は「武器」を持ってコントロールしようとすると、不具合を感じるでしょう。太極拳の套路を練習するとき、盾や武器を持って練習するわけではありませんが、この左右の違いが同じように存在します。

   


 
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