第一章
5 左足から「地の気」を取り込み右手に流す
 

 足にも左右の違いがあります。右足は「動き出す足」です。左足は「ささえる足」です。太極拳の「定式」つまり、動作の完成した形では「右足に体重を乗せている」形が多いのです。簡化太極拳を例にとれば、「白鶴亮翅」「手揮琵琶」「高探馬」などです。また、動き出すときは「右足」で蹴りだす動作から始まるのです。

 この傾向は、「伝統拳」になれば、さらに高まります。また、太極拳の理解が深まれば深まるほど、左右の差ははっきり認識されてくるのです。

 陳式太極拳に「掩手肱捶」という、右拳を打ち出す動作があります。この動作は、まず右足に体重を乗せ、右足で蹴りだし、その力で右拳を勢いよく斜め前方に打ち出しているように見えますが、そうではありません。

 私は若いころ、ある老師から、「前足(左足)から『地の気』を取り込み右手に流しているのだ」ということを教わりました。その時には、それがどんなに本質的なことなのかわかりませんでしたが、それが「発勁」の理解だったのです。「掩手肱捶」の「肱」は「肘」という意味です。

 車の運転でいえば、右足が「アクセル」、左足が「ブレーキ」です。まず右足で蹴りだし、その力を「左足で止め」ます。すると、右足から発せられた力は「右肘」に上昇します。そして力は右拳に達するのです。それで終わりではありません。力は右拳から出ていくのではなく、螺旋を描いて右肘、そして右足に降りていきます。右足から「力」を地面に流すのです。

 このプロセスは、実際に発勁するときは稲光のように激烈です。その一瞬を写真にとらえると顔の頬が歪んでいます。当然、頭の中の脳も強い衝撃を受けるでしょう。ですから、このような技を身につけた人はそれをゆっくり練習します。

   


 
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