第一章
11 ダウン
 
 さて、この二つの姿勢から「ダウン」と「アップ」という二つの「勁」の流れが生まれます。

 「勁」という名称は太極拳の老師の言葉の中に出てきますね。「畜勁」とか「発勁」とか、「纏系勁」とか「抽糸勁」とかというように使われますがでは「勁」、とは何でしょう。

 勁は「力」です。しかし、体を固くして作る力んだ力ではありません。この力は本来鍛えることがいらない「天然」の誰でも持っている力なのです。それは水のような力です。

 水が高いところから低いところに向かって流れていく力は、ダムでせき止められると「電力」を生むことができます。または海の水が巨大なタンカーを浮かべているような、当たり前だけど、気づかない「力」、それを「勁力」と呼びます。この力に気づき、この力を自在に使いこなすことが太極拳練習の意味なのです。

 「勁力は「筋力」ではないのか?実は「筋肉」が力のもとです。しかし、一般に私たちが考える「筋力」ではありません。私たちが「筋力」というときは上腕二頭筋で代表される「相性筋」の力をさしています。そうです、「オレは強いぞ!」と右腕をまげると、上腕二頭筋の発達した人は、力こぶができます。「相性筋」は「動く」ときに使われる筋肉です。それに対して、ささえる筋肉「緊張筋」があります。

 。緊張筋は何も動かないで「立っている」ときにもしっかり働いています。この筋肉を働かせているという自覚はないかもしれませんが、全身の骨格をしっかりと支えているのです。

 この力を理解するためには繊細な「注意力」と徹底した「脱力」が不可欠です。

 それでは、まず「ダウン」という流れをイラストで見てみましょう。


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