第一章
21 陰陽開合の理

 「太極拳の練習は何のためでしょう?」と弟子から質問されて、簡潔に「陰陽開合の理を悟ること」と答えたのは陳鑫(ちんきん)老師です。

 「陰陽開合の理」と一言で答えて弟子はわかったのでしょうか?わかったようでわからなかったのではないかと思います。言葉で理解することはできても、体得することはむずかしいでしょう。

 「理」とは何でしょう?「理」とは「理想」の理、「理解」の理、「道理」の理です。ジェダイの騎士の持っている「理力」の理です。

 「理」とはこうあるべき、そうでなくてはいけない、理に適っていることです。

 地上1・五から二メートルの高さで、生きている私たちは、頭上に注意を向けることも、足元を意識することもあまりありません。両手を開く動作も閉じる動作も「アップ」と「ダウン」の動作で行うなんて、太極拳を練習しているあなたはこれまで考えてみたことがあったでしょうか。

 しかし、スポーツの世界では、それは当たり前のことなのです。バレーボールやバスケットボールでボールを「トス」する動作も、サッカーの「スローイン」も、のけぞる動作、前傾する動作が含まれています。ボクシングの試合を見てもジャブやストレートを打つ動作にこの前傾とのけぞりの動作を見ることができます。錦織圭がラケットを振る動作を見たことがあるでしょう。

 なぜ、太極拳の動作の中にこの動作が見えないのでしょうか?それは、この動作を体得した上級者は、この動作が小さくなり、見えなくなってしまうのです。初級者には老師がこの動作を教えません。教わらなくて形だけでも全然気になりません。そんなものだと思って、何十年も太極拳を練習するうちに、その人は指導者になって、この動作のない太極を指導することになるのです。

 しばしば、宗教の中にこの動作を見かけることがあります。しかし、もともとこの動作は、信仰とは無関係で、「気」のはたらきを高めていくためのものなのです。
 
 
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