鶴と蛇と太極拳
承の章

 
 1 なぜゆっくりか?その1

 

次の質問は、

太極拳は中腰でゆっくり練習していきますが、それはなぜでしょう」です。

太極拳というと「ゆっくり動く健康法」というようなイメージがあります。実は、陳式太極拳のように、早い動きをゆっくりな動作の中に織り交ぜて練習する流派もありますが、やはり、陳式太極拳でも本質は「ゆっくり」です。

 太極拳は武術として生まれました。武術として、敵の攻撃を避けたり、打撃を与えたりするためには、ゆっくりではどう考えても、役に立ちませんね。ゆっくり動く太極拳には武術の要素は消えてしまっているのでしょうか?

 いいえ、そうではありません。では、なぜでしょう?

 この質問には二つの答えがあります。まず一つ目の答えは「使う筋肉が違う」ということ。

「早く動く」ときと「ゆっくり動く」ときでは、使われる筋肉が違います。

早く動くときに使われるのは「相性筋」、ゆっくり動くときに使われるのは「緊張筋」と呼ばれる筋肉です。

 相性筋はトレーニングして「肥大する筋肉」です。腕を曲げて力瘤を作りますね。力瘤の大きい人は相性筋が発達している人です。基本的に速い動きや瞬発力を必要とする動きはこの「相性筋」を必要とします。陸上の短距離選手は腕や足の筋肉がとても発達しています。

それに対して、マラソン選手や卓球の選手には太い発達した筋肉の目立った選手はいません。相性筋を発達させすぎた人は、マラソンや卓球は苦手です。緊張筋は相性筋のように肥大することはありませんから、あまり目立ちません。

 しかし、使わないでいると、緊張筋は筋繊維が減数してきます。

 重い病気をして、しばらく寝たきりになっていると、病気が回復して起き上がろうとすると、ただ、立つことがつらいと感じるといいます。それは、緊張筋の筋繊維が減ってしまったためです。

太極拳でゆっくり動くのは「緊張筋」を重視するためなのです。緊張筋は、別名、「抗重力筋」とも呼ばれ、重力のはたらきに対して人体を一定の姿勢に保つための筋肉です。

たとえば、じっと立っている時、動きはありませんが、全身の筋肉は何もしていないわけではありません。しっかりと、「立っている」のです。

太極拳はこの「支える力」を重視してトレーニングします。たんとう功のトレーニングも、実は緊張筋をトレーニングしているのです。

                                                                                                                          
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