鶴と蛇と太極拳
承の章

 
 2 火事場の馬鹿力は緊張筋

 

「相性筋」は大脳の命令で動く筋肉です。それに対して「緊張筋」は脊髄の命令による無意識のうちにはたらく筋肉です。

 たとえば、テーブルの上のコップを持とうと手を伸ばすとき、その手を伸ばす動作は、「意識的」です。しかし、同時に、意識に上らない筋肉の運動があります。

 つまり、姿勢をしっかり「支える力」です。そして、伸ばそうとする手を一定の高さに「保つ」筋肉のはたらきです。その筋肉のはたらきは、重力の働きに対して「抵抗」するように全身を支えています。

 速く動くときは無意識なその「支える筋肉の力」は、ゆっくり動くことによって、「意識できる」ようになるのです

 動作をゆっくりにすると、「相性筋」と大脳のはたらきはスローダウンしていきます。それに対して、「緊張筋」と「自律神経」のはたらきが活発になってきます。

 緊張筋と、脊髄にある運動神経こそ、火事場の馬鹿力的なパワーのもとです。

 家族が寝静まった深夜、「火事だー!」と叫ぶ声に、驚いて飛び起きたお父さんは、「大丈夫ださあ落ち着いて、みんな逃げろー」と言いながら、枕を抱えて外に飛び出していく、それに対して、お母さんは「キャー助けてー」と叫びながらも、金庫を抱えて飛び出していく・・・これが「火事場の馬鹿力」を説明するときに使われる「小話」です。

 抗重力筋優位の体を作るために太極拳はゆっくり動いて練習します。そして当然ですが、抗重力筋優位の筋肉になることで、武術に必要な、素早い反射的な動きもできるようになるのです。

                                                                                                                          
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