誰にも聞けない太極拳の疑問


第八章 太極拳でホントに強くなれるか?
 




5 一本の木を見れば蛇が見える


 「木を見て森を見ず」という格言があります。個々のものは見えていても、全体像が見えないという意味ですね。でも「蛇」に気付くためには森は見なくてもいいのです。

 「蛇」・・・・太極拳が本当に武術として威力を持つためには、練習者は一本の木つまり、一つの「勢」の中に潜む「蛇」の存在に気づかなくてはいけません。

 
「蛇なんて、私はそんなこと一度も先生から習ったことなんかないぞ」と不審に思う人もいるかもしれません。しかし、ああ、「鶴と蛇の格闘」という、例のあれだな、とすぐにピンとくる人もいるでしょう。

 「鶴と蛇の格闘を見て太極拳を創始した」という太極拳の有名な伝説があります。

 ・・・・ある時(宋の時代であるとも、元の時代であるとも、明の時代であるともいわれています)、武当山で修行をし、陰陽太極の理を究めた張三峯道士が、庭先で鶴と蛇が争っているのを目撃しました。

 鶴は羽を広げて旋回しながら円形の動きをとり、蛇はその尻尾を、首の動きに合わせて攻防しました。

 その時の鶴の羽ばたく姿と蛇のからみつくように動く形から、柔が剛を制し、静が動を制する原理を悟り、その後、太極拳を編み出したという話です。

 太極拳の創始者のひとりとして、登場する張三峯ですが、そんなものはただの伝説であって、張三峯は実在の人物ではないという説もあります。
 
 もしかするとそうかもしれません。しかし、鶴と蛇の格闘の伝説は
とても興味深いストーリーです。

 私は、もしも、それが単なるお話だとしても、そのようなお話を作れる人は、必ず武術的素養のある人だと考えます。

 私は30数年、太極拳を修行してきて、ごく早い時期からこの蛇の存在に気付いていました。雑誌(気の森)の連載で発表したこともあります。

 それでは、この本の読者が太極拳の武術的要素をしっかり身につけるために、「蛇」について、「蛇をつかむ方法」について、改めてここで紹介していきたいと思います。



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